いつも心に音楽と、山と

さすらいの教師takebowの趣味の部屋

土曜日, 10月 21, 0018

山行回想10-針ノ木岳-

「山を想えば 人恋し
人を想えば 山恋し」(百瀬慎太郎)

真 夏でも雪があるという風景は登山をやらない人には理解しにくいかも知れない。しかも全て溶けることなく、秋には再び新雪が上から積もって氷として堆積して いく雪渓はなかなか見られる場所が少ない。日本には三大雪渓とよぶ比較的(あくまでも日本レベルで、氷河とは呼ばない)大きなモノが3つある。白馬・剣 沢・針ノ木の三箇所で、北アルプスでも北部に位置し、信州側というより東向きの谷筋にできている。所々、クレバスと呼ばれる溝や表面が凍った処があるので 歩行、特に下りは要注意である。

大好きな山道に柏原新道があり、そこから針ノ木岳に 向かった時の話を記したい。その頃は仕事の関係で8月上旬に山行していたが、いつも全行程安定した天気に恵まれることは無かった。一日目は扇沢に車を停 め、柏原新道を種池山荘に向かった。いつもだったら、ここで一泊なのだが、先を急ぎ新越乗越小屋に向かう。静かな登山道ですれ違う人もまばら。みんな種池 から爺・鹿島槍に向かってしまうのだ。途中、ポツポツと雨に見舞われながらも、何とか天気がもって小屋までたどり着いた。途中、猿の軍団がハイ松の実を食 い散らかしながら、山の斜面を下っていくのに遭遇した。下に黒四ダムと黒部湖があるはずだが展望がきかず、当然、立山も見えなかった。山小屋で一瞬だけ雲の切れ間から立山が見えた。翌日はしっかり朝から雨。しかし、稜線歩きなので 頑張ろうと雨具に身を包み、立山黒部アルペンルートの真上を歩く。冷い雨の中を歩く。何も見えないのにひたすら歩く。針ノ木岳山頂の写真も雲の中で私と標 識以外は何も見えない。そこから峠に向かって下る。小屋についてしばらくすると、今までの天候が嘘のように雲が切れてきて、日がさして来るではないか。これは チャンスとばりか、ビール片手にコマクサで有名な蓮華岳に向かう。初めは感動してコマクサの群落を撮っていたが、そのうちあまりの多さに感動が薄れてし まった。人間とはいい加減な動物だ。山のガレた斜面に健気に咲くコマクサ。少ないから、珍しいから、ありがたいのだろう。見渡す限りコマクサのお花畑では 写真もそこそこになる。蓮華の頂上で船窪岳方面を眺めながら麦酒を飲む。最高、至福の時だ。夕方、小屋の外で景色を眺めていると、ヘリが飛んできて遭難者 をスバリ岳の頂上付近からホバーリングでつり上げて救助していった。天候とは別の山の怖さを痛感した。慎重に下ろうと誓う。翌日は針ノ木雪渓を下る。軽ア イゼンを持っていたので、快適。天気も良かったので快調に進む。冒頭の詩を書いた百瀬慎太郎ゆかりの大沢小屋を経て、扇沢に向かう。最後はお決まりの大町 温泉郷の「薬師の湯」で汗を流す。


登りはキツく辛いことが多いけれど、実はあまり危険ではない。降りにこそ危険が潜んでいる。これもまた人生と同じか。                    (写真は針ノ木大雪渓)