【名曲名盤】ローランド・カーク『溢れ出る涙』
その天才は何本もの管楽器を口にして、演奏していた。ロックなどの演奏家たちに囲まれて、例のサングラスに帽子、濃いひげを蓄えている。
ビデオ『supershow』で初めて見た彼、ローランド・カークの勇姿だった。ジャック・ブルースやバディ・ガイらとブルースをテーマに共演していた訳だが、まさにフュージョン。見た目の奇怪さとは異なり、そのテーマに関する音へのこだわりはなみなみならぬモノを感じた。
JAZZが好きとはいっても、実はピアノトリオを聴く程度だった小生にとって、サックスなど管楽器はとても違和感があり、好きになれずにいた。マイルスやコルトレーンなど少しずつ触れていくことによって、その帷も破られてはいったが。しかし、それでも彼の見た目の異様さは、慣れ親しむにはハードルが高く、まさに異形のモノという感じがして、CDを聴く気にはなれないでいた。そんな時に出会った名盤が、この『溢れ出る涙』である。鼻で吹いたり、3本同時に演奏したり、演奏しながら歌ったり。いくらジャズでも考えられないこれらのパフォーマンスとは異なり、このアルバムの彼はリリシズムに溢れ、時にメロディアスで、時にパワフルで、彼自身の描きたかった音が詰まっている。音で実像を描き出そうとするかのごとき姿は、鬼気迫るモノを感じる。特に1曲目のThe Black and Crazy Bluesや6曲目のThe Creole Love Callなどは彼の個性が光っている。溢れ出る「涙」は異形のモノとしての彼の音楽性に他ならない。
ローランド・カークはジャズそのものであり、黒人音楽そのものだ。
This man is what jazz is all about. He's REAL.(by Charles Mingus)
Roland Kirk 『The Inflated Tear』 (1967) Atlantic
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